2019年における人財開発のトレンド(その2)~テクノロジー編
2019年1月21日にブランチャード・ジャパン主催ランチョンセミナーが開催されました。これは、ケン・ブランチャード社のリチャード・パウンド氏(グローバルパートナービジネス担当バイスプレジデント)ならびにポール・マーフィ氏(APACオペレーション担当ディレクター)の来日に伴い開いたイベントで、2019年における人財開発のトレンドについてのプレゼンテーションを行いました。プレゼンテーション前半の「ケン・ブランチャード社による調査結果について」は先月ご紹介しましたので、今回は、後半のテクノロジー・トレンドについてご紹介いたします。
人財開発において求められるイノベーション
ある調査結果 *1 によると63%の人は、「良い研修が受けられるのなら会社に居続けたい」と思っている。しかし、「今の学習経験に満足している」と思う人は48%しかいない。したがって、人財開発の担当者としては、従業員の研修や学習体験を果敢に革新していく必要がある。そんな方々のために、最近、台頭している人財開発関連のテクノロジーのうち、マイクロ・ラーニング、ゲーミフィケーション、VR・AR、デジタル資格情報の4つをご紹介しよう。
マイクロ・ラーニング
マイクロ・ラーニングは、「ソフトスキルまたはハードスキルをオンラインで小さい単位毎に学習する方法」と定義づけられる。小さい単位とは通常5分以内である。
たとえば、米国ではほとんどの社会人がアカウントを持つLinkedInの中にも、様々な人が様々なマイクロ・ラーニングのモジュールをアップしており、誰でも気軽に学習することができる。また、Grovoに代表されるグループ・ラーニング・プラットフォームを用いて、学習者をグループに分けて学ばせている企業も増えてきている。
では、実際にどのくらいの企業がマイクロ・ラーニングを活用しているのだろうか。ある調査*2によると、38%の企業が「活用中」、41%の企業が「活用していないが1年以内に導入を予定中」、20%の企業が「活用していないし1年以内にする予定もない」と答えていて、かなり普及が進んできているといえる。さらには、現在活用中の企業のうち、92%もの企業が「来年はもっと活用したい」と答えている。なお、ブランチャード社もマイクロ・ラーニングのプログラムを近日中にリリースする予定である。 出所:Microlearning – Delivering Bite-Sized Knowledge, ATD Research
なぜ、マイクロ・ラーニングはこれほどに普及してきているのだろうか?その理由として挙げられるのは、学習者は内容よりも便利さを重視する傾向にあるということである。なんといってもマイクロ・ラーニングはスマートフォンで学べるという便利さが魅力だ。実際、あるアンケート調査*1では、研修を受けるにあたって重視することとして、70%の人が「スケジュール」を選んだのに対し、「内容の適切さ」を選んだ人は46%に過ぎなかった。
マイクロ・ラーニングのメリットは、フレキシブルに学べること、学習者のペースで進められること、1つの単位といった単発でもシリーズや単位の組み合わせなどでも受講できることにある。一方、デメリットは、たくさんの単位があって飽きてしまったり、内容がつまらなかったりすることがあり、学習者の学習効果が必ずしも高くない点である。
ブランチャード社としては、マイクロ・ラーニングを次のように捉えている。
- すでに普及しつつあり、多くの企業に受け入れられている
- 学習者にとってアクセスの便利さが魅力
- コンテンツを届けるには有効だが、スキル習得には不向き。学習者の行動変容を狙うなら、練習する機会が不可欠。
ゲーミフィケーション
ゲーミフィケーションは、「学習者の意欲と参画意識を高めるために、ゲームまたはゲームのような要素を学習プロセスに組み入れること」と定義される。ゲーミフィケーションは、社会人よりも小中学生向けが先行して開発されている傾向にある。例えば、duoLingoは外国語を学ぶアプリだが、ゲーミフィケーションにより子供でも楽しく学べるようにできている。
ブランチャードのSLII®研修では、SLIIチャレンジというオンライン・ツールがあり、学習者はモジュールを完了するごとにポイントを獲得し、学習者同士で競ることを企図している。
一般的には、企業での活用は進んでいるとはいえない。ある調査結果*3によると「研修プログラムにゲーミフィケーションを活用している」と答えた企業は11.3%のみ、「今後1年以内に導入を予定している」企業も8.8%に過ぎなかった。
ゲーミフィケーションは、勝利や目標達成へのこだわりという人間の本能に働きかけることで、学習者の参画意識や、最後までやり抜く意欲を醸成できることにメリットがある。一方、小中学生に比べて大人にはどれほど有効なのかという疑問は残る。子供だましのように感じて冷ややかに反応する人がいるかもしれないことがリスクだ。
ブランチャード社としては、ゲーミフィケーションを次のように捉えている。
- 学習者の目標達成につながるようなゲームであれば喜ばれる
- 上手にゲームを設計すれば、進捗確認や競争に役立つ
- 今後、LMS(学習管理システム)がゲーミフィケーションの機能を搭載していくことが予想されるので、自分で開発する必要はない
VR、AR
VR(仮想現実)とはご存知のとおり、実際の場面を人工的にコンピューターで再現し、学習者の視覚、聴覚、触覚などを刺激する方法である。また、実際の風景に仮想の視覚情報を重ねて表示するAR(拡張現実)というテクノロジーは、街角のお店情報アプリなどで体験済みの人が多いことだろう。
ARの学習ツールで自分が気に入っているのはZapparだ。これを使えば、学習者の実際の職場シーンや人物、仕事道具などの映像を学習コンテンツに織り込むことができる。学習者にしてみると、極めてリアルな状況で学んだり練習したりすることができるので、とても効果的だ。
VRとARへの投資はこれまで倍々に増えてきており、今後も特にARが急速に増えていくことが専門家によって予想されている。
総じて、VRやARを学習に使うことは、実感を伴った体験によって学習者へのインパクトが高まり、場所や時間の制限がなくなり、必要なときに有益な情報を見ることができるというメリットがある。
一方、「やりすぎ感」が出てしまうことがあったり、人によってはVR用のメガネで酔ってしまったりすることがあることが難点である。そして、かなりの費用がかかる。
ブランチャード社としては、マイクロ・ラーニングを次のように捉えている。
- 危険または遠い職場を再現するのにVRは最適
- VRを使って学習者は失敗を恐れず練習することができる
- 双方向のジョブ・エイド(学習事項の実践用ツールなど)にARは最適
- ARは学習者を驚かせたり感動させたりするのに効果的
デジタルな資格情報 (credentials)
近年、ネット上で資格を発行したり、資格を有していることを情報発信したりすることが多くなった。最も典型的な例はLinkedInで、自分のプロフィールを作成するときに、自分が有するスキルや資質に対して他の人から承認してもらうことが日常的に行われている。他にも、この機能に特化したアプリとして、例えばCredlyというものがある。また、最近、米国などで人気のMOOC (Massive Online Open Courses)は、デジタルな資格情報のトレンドにうまく乗じたビジネスモデルといえるだろう。というのも、MOOCは、講座を受けるのは無料だが、受講修了の認定書は有料だからだ。認定書という資格情報でマネタイズしているのである。
こうした資格情報を得たり発信したりすれば、自身が持てる知見やスキルを「見える可」することができ、他人に認めてもらったり、自分に適した仕事を得たりするのに役立つ。一方で、世の中にはネット上で簡単に得ることができる認定書も少なくなく、本当の実力をどれほど示しているかは疑問だ。また、学んだり、スキルを向上させたりするより、資格を取ることが目的となってしまっている人もよく見かける。
ブランチャード社はデジタル資格情報について次のように捉えている。
- 修了書や認定書の発行により学習者が最後まで受講することを促進できる
- 認証や認定証を発行するのは比較的簡単にできる
- マネタイズの機会がある
まとめ
以上、4つのトレンドを紹介したが、まとめると次のようにいえるだろう。
- マイクロ・ラーニングは企業では主流になりつつあり、未実施の企業は導入を検討すべき
- ゲーミフィケーションは台頭してきているもの、活用するときは学習者との相性に注意すべき
- ARは多くの可能性を秘めており、これからどんどん発展する
- デジタル資格情報は「あるとよい」程度
ブランチャード社では、MARS (Market Analysis, Research & Strategy)という部署を設け、学習方法のイノベーショントレンドを追っており、今後、ブランチャードのプログラムの革新を随時図っていく予定である。
まだ、ブランチャードのプログラムを体験していない方は、是非一度こちらでご体験ください。
*1出所:Learning & Development from Both Sides of the Table, Coursera, May 2018
*2 出所:Microlearning – Delivering Bite-Sized Knowledge, ATD Research
*3 出所:Trends in Training & Learning Management, Dr. Allen Partridge, Adobe
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